top of page

すべては人との出会いに紐づくからこそ、惜しみない感謝を。

はまだ あかりさん - 出版社勤務



 何かに悩んでいるとき、落ち込んでいるとき、”この人に会うと、何だかパワーをもらえるな”という存在は、身近に少なくとも1人はいるのではないだろうか。私にとってのその人は、間違いなくあかりちゃんである。屈託のない笑顔と、天真爛漫さが魅力の彼女は、まさに太陽の申し子のような存在。大学の頃に出会った彼女とは、所属していた研究室が一緒で仲良くなった。好奇心にアンテナを張り、国内でも海外でも心が赴くままに足を向けて、常に行動し続ける彼女の原動力を、眺望の眼差しでみていたのは言うまでもない。



 現在、教科書などを販売する教育系の出版社で、営業として勤めているあかりちゃん。全国各地へ出張へ行き、持ち前の明るさを発揮しつつ、取引先と関係を築き続けている。時には思い悩むこともあるみたいだけど、前向きな気持ちで行動し続ける彼女は、日々どんなことを考えながら過ごしているんだろう。そういえば、彼女の過去のことって、あまり知らないかも?そう思い、話を聞かせてもらうことにした。



人と歩み寄る心地良さを知った 幼少期

 幼い頃からあまり人見知りをしなかったという彼女。どちらかというと目立ちたがりで、何事も自分が中心に回っているような、すごくとげとげした時期だったそう。私が知る彼女は、周りを巻き込んでその場の空気まで明るく変えてしまうような人だからこそ、そんな時期もあったのかと驚く。



「小学校高学年の頃、元々仲良くしていた子たちと自分から距離を置いて、いつも楽しいことをしてふざけ合っているような子たちと付き合うようになって。最初はその子たちも何で急に?って感じだったんだけど(笑)すぐに受け入れてくれて。この頃からかな、自分が何かをしたいっていうよりも、みんなと何かをしたいと思えるようになったのは」



 中学生になった彼女は、”周りの人をどうしたら楽しい気持ちにできるか”ということを常に考えていた様子。この年齢の頃の自分といえば「自分がどう見られているか」「周りに馴染めているか」といった、環境の些細な変化に敏感になる時期で、どちらかというと自分に軸があったような気がするけれど、彼女はそうではなかったらしい。



「みんなで過去を振り返った時、『あの時は楽しかったよね』っていう会話は、絶対共有できた方が良いと思って。その時に不在だった子に疎外感を感じさせたくないから、体育祭前とか、そういう子たちを授業が始まる前に学校に呼んで、一緒に競技の練習をしてた。普段は学校に来ることができなくても、行事の当日だけでも参加できるように、準備を整えることに必死になってた。部活動でも、ミーティングの時間を多めにとったりして。目立ちたい気持ちは変わらずあったけど、自分さえ良ければって気持ちは、この頃には無くなってたかな」



 高校では、バレーボールの強豪校に進学したという彼女。厳しい環境に身を置く中で、考えを覆される場面が多く、自分を押し留める場面もあったそう。大人になった今でも繋がりのある恩師には感謝をしているものの、「謙虚にはなったけど無理をしていた」という時期。その3年間を乗り越えた彼女に、大学での出会いをきっかけとして転機が訪れる。



自分自身を認めることは、相手を認めること


 「自分がされて嬉しかったことは覚えておいて、誰かに同じことをしてあげたい。高校までは、相手に対して『それ、良いね!』って思えることがあっても、直接褒めたり、認めたりすることをしてこなかった気がして。大学での出会いを経て初めて、自分だけじゃなくて、相手を心から認めたくなったんだよね。人生に影響を与えてくれていた人たちがたくさんいた」



 そう話すあかりちゃんは、大学時代にNGO団体が主催する、国際ボランティアサークルに所属していた。もともと海外へ関心があったわけではなく、高校時代の先輩がボランティア活動をしている姿を見て興味を持ったそう。偶然にもネットで見かけた他大学のサークル団体に参加することを決めたんだとか。この活動を通して出会った人たちが、心の奥底に閉じ込めていた、彼女の本来の姿を引き出すことになった。



「『めっちゃいいやん』とか、『あれも、これも良いよね』とか。年齢関係なくお互いを認め合う環境だったの。自分の得意なことを活かし続けようとしている人がいっぱいいて、全員のことを今でも尊敬してる。例えば、爆発的に自分の感情を表現し続けるひと、話の組み立てが上手い人、常に新しいことをしようとしている人とか。みんなを見て"自分は自分でいいんだ"って再認識できたから、本当に解放されたし、ずーっと笑ってた(笑)」



 相手を否定することなく、誠実に話を聞いてくれる存在がいること。その環境下で自分の個性を知ることは、自分自身を認めるのと同時に、相手の存在も認めることに繋がる。その環境を掴み取ることができたのは、彼女自身が常に外の世界へ意識を向けていたからこそ。大学4年生の頃にも、「ミュージカルを通して、多様性を認め合える社会を目指すこと」をテーマに掲げるNPO団体に所属することを決めた。



「大学3年生のころ、国際ボランティアの繋がりでミュージカルの舞台を観に行って。大学が楽しすぎたからこそ、『社会人って大変そうだな』ってネガティブな感情を持っていた時だったから『キラキラした目をした大人たちが、舞台に立ってる!』って感動したんだ。ダンスも歌も全く興味ないけど、自分も舞台に立って、大切な人たちみんなを呼んで、ハッピーな気持ちになってほしいって思ったの」



 彼女は何かを選択するとき「こういう人に惹かれた」「そこに行けば、自分の周りの人たちを幸せにできる」と、起点となるものの多くはいつも”人”にあるように感じる。人と対峙したときに直感的に感じる気持ちに対して、真摯に向き合っているというか。「どうしたら相手を幸せにできるのか」と常々考えることを、愛を持って自分の使命として選択する姿からは、それ自体を実現するために行動することそのものが、彼女にとっての幸せなのだと感じる。幼い頃から変わらず、芯には人を想う気持ちが根付いているようだ。



どうしたら幸せな気持ちになってもらえるのか

 そんなあかりちゃんが、人と関わる上で大切にしていることは何なのだろう。私自身が彼女を好きだと感じることは本当に沢山あるけれど、”自分は周りに助けてもらっている”という意識を欠かさず持っていることは、その一つだと感じる。私がやって”あげた”という自意識は、どんな場面でも少なからず生まれてしまうものだと思う。けれど、彼女はそんな意識があるどころか、周りに対する感謝の気持ちを溢れんばかりに持っている。どんな些細なことでも「ありがとうー!」と、元気いっぱいの満面の笑顔で伝えてくれる彼女に対して、「そんな大したことしてないのに、むしろこちらこそありがとう!」という気持ちになってしまう人が、たくさんいるのではないだろうか。



 「嬉しい、めっちゃ心がけてる!自分の心で決めているのは、相手に対して捨て台詞を吐かないことかな。もし相手に何かあったときに、一生後悔するってわかっているから、それなら我慢したほうが良いなって。相手のことを受け入れられない瞬間があったとしても、まず相手を認めて、何かしてもらった時に『ありがとう』って、感謝の言葉を一言を発することができるかどうか。他にも、自分の機嫌は自分でとって、毎日楽しい気持ちでいること。元気よく挨拶しようとか。相手を名前で呼ぶこともそうかな。全部、自分が出来る一歩を踏み込んでる。そういう自分でありたいって常々思っているのもあるけど、そう思えるのは、誰かにやってもらって、単純に嬉しかったからだと思う」



 自分が相手に対してできることを考え、常に一歩を踏み込むということは、自分に対してストイックに向き合う必要があるように感じるけれど、それが彼女自身のポリシーなのだと感じる。誰かにしてもらった恩を、他の誰かにも返していく。その積み重ねで、いまの彼女がいる。そして、昔から”周りを楽しませたい”気持ちが一貫していることも。



「ある意味イコールでもあると思っていて。自分が楽しくないと、周りも楽しくない。自分に余裕がないと、周りを幸せにできないから。苦しいときは、自分がそうじゃないから、周りもうまくいってないのかなって。そういうのは自分次第だからこそ、なんとかしたいって思う。大学時代のサークル活動で、幸せな気持ちが伝染していくことを体感したからこそ、そう思える」



 自分が人からされて嬉しかった出来事を何も忘れたくないと思うものの、時間が経つとどうしても、自分が発した言葉や出来事など、細部まで覚えていることは難しい。それでも彼女は、人からしてもらったその瞬間、身体に染み込ませるように吸収して、何らかの形で発散しているようだ。彼女自身が意識していることと、無意識に行えていることがあるのだと思うけれど、持ちつ持たれつの関係を他者と築き上げていくことは、簡単にできることではない。そして、相手の嫌な面ばかりを覚えているわけではないということは、相手にとっても、自分自身にとっても重荷にならない。私は、彼女のそういうところを尊敬している。



理想とのギャップの感じながらも、見つけた最適解

 彼女が勤めている出版社では、大学生の頃からアルバイトとして働いていたそう。就職を決めたのは、その業界で働きたかったというよりも、自分らしく働けるところを模索した結果だったのだとか。



「もともとは中学校の先生になりたかったけど、高校時代の部活動で辛かった経験があるから、先生になろうとは思えなくて。けど、教育関係に勤めていたら、間接的に先生の力になれるかもって思ったんだ。ミュージカルをしていたNGO団体では、多様性を認め合って共に生きるための”共育”を、出版社では偏差値を向上させるための”教育”を。どちらの側面も知ることができたら、相乗効果で子供たちに何か良い影響を与えることができるんじゃないかって考えたんだ」



 教師として実現したかったことは「子供たちがのびのびと自分らしく過ごせる環境で、お互いに良い影響を与えながら、新しい言語を学んでもらいたい」だったそう。仕事に取り組む中で、出版社営業としての立場から、その理想を叶えようと取り組んでいたものの、現実とのずれを感じた様子。



「扱っている教材を通して、少しでも子供たちの授業の幅を広げられたら良いなと思ってるけど、全ての先生がそう思っているわけではないし、会社で扱っている教科書を使わないほうが良いことも勿論あって。自分の考える理想と、仕事としての理想って違うのかもって気づいた時、最初はそのギャップが苦しかった」



 思い悩みながらも、仕事と向き合い続けてきた彼女。苦しい時期を乗り越えることができたのは、やはり人との縁を感じる瞬間があったからだった。



「例えば、先生に気に入ってもらっても、学校の会議で採用されなかったら使ってもらえないから、すぐに結果は出なくても、2・3年後に実ることもあるのが今の仕事。取引先の学校や、書店を訪問した時に『あかりさん来たんですか? 』みたいに、自分の存在を覚えて認めてもらえているのが嬉しくって。私は、お客様に喜んでもらえればそれで良いと思ってるし、 元気をもらえるって言ってもらえると、すごく嬉しいから。私が苦労してることを理解した上で、いいことも悪いことも言ってくれる人が多いし、一生懸命やることを当たり前だと思っていないお客様が多いことがありがたいなって。ずっと通い続けていたのもあるし、トラブルを一緒に乗り越えてもらったのもあるけど。一つの大きな出来事ではなくて、日々の積み重ねで、安心感に繋がっているのかな」



 自分だけのために何かを購入する時と比べて、他人に影響を与える何かを買う決断をする時のハードルは高い。それでも、彼女から購入したいと思ってもらえるのは、人のためを想って行動する誠実さや謙虚さが相手にも伝わっているからではないだろうか。理想とのずれを感じながらも、幼い頃から「どうすれば人を幸せにすることができるか」を自問し、行動をし続けてきた彼女だからこそ、見出すことができた答えのように感じる。

 


自分の選択に自信を持って。また一歩、ワクワクする方向へ。

 大学3年生から昨年まで、社会人になってからもミュージカルを企画するNPO団体での活動を続けていた彼女。ずっと続けていくこともできたけれど、あえて離れる期間を作ることに。社会人として経験を積み重ねてきたことで "こうすればうまくいく "という型に嵌める前に、これから向き合う新しいことから着想を得て、考える時間を設けることにした。



「今、こんな人になりたいなって、目標とする存在が近くにいないから少し悩むこともあるけど、だからこそ、外に視野を広げるのって大事。今の環境に落ち込まないように。素敵な人は世の中にいっぱいいるから」



 これまで出会ってきた人たちから培われてきたものだと思うが、彼女が発する言葉は、出会った頃から常に前向きなものばかりだ。



「言葉選びって大事だなと思ってて。前に立つ人の言葉で、こういうふうに言ったらみんなが元気になるんだ、話す順番ってこんなに大事なんだっていうのを、NPO団体にいた頃に学んでいたからこそ、自分の言葉を調整できてたんだよね。本当に出会った人に恵まれてる。自分の言葉は出会った人たちに作り上げてもらったと思ってるから。パワーをとられるのも人だけど、逆にもらうのも人だもんね」



 現状に落ち込むことなく、どこかに良い面を見出しながら、軽やかな足取りで前に進んでいく彼女。今後、何かしてみたいことはあるんだろうか。



「海外のボランティアには今も行きたいと思ってる。人と出会ったり、関係性やストーリーがあれば協力したいなって。特に場所のこだわりはないから、結局自分はすべて人との出会いに紐づくんだと思う。世の中グレーなことが沢山あるのに、自分の中で "こうすべき "って白黒はっきりさせてしまうことが多いし、これから年齢を重ねるといろんなことに制約が伴うから、焦りもあるけれど。具体的に何かをしたいっていうより、素敵な人たちがいる空間にいたいな。何か選択したことで、そこから見えてくるものもあるよね。きっとどれも間違いじゃなくて、選択の連続で今の自分があるから、まずはそれを選んできたきた自分を褒めたい、良くも悪くも。みんなそう!」



 今まで色んな人に出会ってきたあかりちゃんには、選べるものの多さがあると感じる。様々な角度から新しい生き方を柔軟に取り入れられるのは、彼女自身が磨いてきた強みだ。常に正解を辿る必要はない。小休止しつつ、また一歩踏み出していけば良い。そんなことを彼女から教えてもらった気がする。数年後には、お互い何をしているんだろう。これからを楽しみに、私たちはまた前に進んでいく。

 



(おわり)


bottom of page