top of page

みんなの笑顔が繋がるように、ちょいっと一杯、心を込めて。

 出張チャイ屋Chai Tona むねかたりおさん

 

 紅茶と聞いて、想像するのはどんな味だろう。ストレートティー、レモンティー…多種多様な中でも、私自身が真っ先に頭に浮かべたのは、牛乳と砂糖をたっぷり入れた甘いミルクティーだった。おやつの時間に飲む紅茶といえば、ミルクティーを好んで淹れることが多かったからだと思う。

 私が大学生の頃、人生で一度も口にしたことがない紅茶と出会った。カップに鼻を近づけるとシナモンやスパイスが香る、深い味わい。それは"チャイ"という飲み物だった。粉末状の細かな茶葉を煮出し、牛乳と砂糖を加えたミルクティーで、使用するスパイスによって味を変化を楽しむことができる。



 そんなチャイの魅力に夢中になり、実店舗を持たない出張スタイルで、2020年3月からチャイの販売を始めた『出張チャイ屋Chai Tona』のむねかたりおさん。


彼女の日課は、高校生の頃から現在に至るまで、毎日欠かさず紅茶を淹れること。ある日、味の濃い紅茶が飲みたくなって、茶葉を火にかけて濃く煮出す方法を思いついたんだとか。あれ、もしかしてチャイと同じ淹れ方? そう思って質問してみると「実はこの方法を試した時、チャイの存在を知りませんでした」だって。なんと、彼女の完全な思いつき!紅茶の新しい淹れ方を自分で発見するなんて、相当な紅茶愛好家だ。



彼女がチャイと出会うのは、それから数年経った頃。兵庫県神戸市にある『tea room mahisha』を訪れたときのこと。


りおさん

「メニューに載っていたチャイのことを、当時の私はどんなものか知らなくて。とりあえず注文して飲んでみたんです。すごく美味しくて、気になってネットですぐに調べたら『茶葉を煮立たせたところへ、牛乳と砂糖を加えて作ったもの』と書いていて。自分が作っていたものがチャイだと気付いたときは、かなりの衝撃でした。てっきり自分が発明したものだと思っていたので、嬉しいような悲しいような(笑)」


海外と国内で。人との出会いが、今の自分の支えになる

 りおさんがチャイへの愛を深めていく少し前に、時計の針を巻き戻してみよう。


高校生の頃、彼女にはキャビンアテンダントになりたいという夢があり、1年8ヶ月間フィジーに留学。現地では"他人のものは自分のもの、自分のものは他人のもの"という文化があったそう。他人をいがみ合うことなく、多様な物事をシェアして暮らしているんだとか。その日常を目にした彼女は「心にゆとりがあって豊かだな」と感じたんだとか。




りおさん

「毎朝学校へ行くとき、近所に住んでいるおばさんが『時間ある?お茶して行かない?』と誘ってくれて。もちろん授業前だから、朝はあまり参加できなかったんですけどね(笑)代わりに、いつもバナナを持たせてくれました。フィジーの人たちは、相手が知らない人であっても、誰かと一緒に過ごす時間を大切にしていていて。現地の皆が私に与えてくれた、何気ない日々の暮らしに、元気を沢山もらっていました」


ちなみに、現地の人たちが好んで飲んでいたのはミルクティーだったそう。彼女が紅茶を好むようになったきっかけは、フィジーで過ごした時間も影響しているのかも。


フィジーにて高校を卒業後、日本へ帰国。半年間かけて西日本各地をファームステイで縦断。その旅先での出会いも、彼女にとって大きな糧となる。



りおさん

「ゲストハウスの運営、カフェの店主、フリーランスでの活動…様々な仕事をされている方々と話をしました。当時、現在のチャイ屋という明確なものはなかったんですが、出会った人達に『自分も何かしたいです!』と話したら、全員が『いいじゃん!』と必ず背中を押してくれる人ばかり。おかげで、自分のことを否定することはなくなりました。自分が挑戦してみたいと思ったことは、口にするようにしています」


りおさんと初めて話した時、なんて楽しそうに相手の話を聞く人なんだろうと思っていたこともあり、この頃の経験が彼女に影響を与えているのだと思うと妙に納得。きっと、誰かと共有する時間を本当に大切にしているんだと。



自分にしかできないことをしたい。悩みながら、探し続ける日々

りおさんは高校3年生のときから、「自分は何だったら飽きずに続けることができるか」を紙に書き出していた。”自分だからできること”を探すために。


りおさん

「もともと私は家に人を招くことが好きで。遊びに来てくれた友人たちに、紅茶やチャイ振る舞うことも好きだったんです。みんなから『美味しい!』と言ってもらえる度に『これならいけるかも』と思ったのが2019年8月。人と会話ができて、何か"もの"を通して出来ることを仕事にしたいと思っていたので、しっくりきました。




18歳からずっと接客業の仕事をしているんですが、接客業って対話でしか相手を喜ばせることができないと感じていて。お客様によって嬉しいと感じる対応も違いますし、物がない分、対価を生むのが難しいなって。目に見える形で表現できるものが自分には何もない。けど唯一、自分を表現できるものを考えたとき、チャイだと思ったんです」


人との会話をすることが得意なりおさんに彼女だから提供できる"もの"が見つかった。さらに、出張というスタイルなら、転々と行きたい場所へ赴き、沢山の人と交流できると考えた。


「どこかに所属すると、そこでのルールが必ずありますよね。100%自分で決めることができないこと、一つの場所に留まらないといけない可能性があることが嫌だなと思って。自由に、色んな人に会いにいきたかったんです」



人と自分をつなぐ存在、それが"チャイ"だった


りおさん

「絵が上手な友人がいるんです。その子が似顔絵を描いて、人にプレゼントして、喜んでもらっている姿を見たことがあって。もともと私は、誰かにプレゼントを贈ることが好きだったんですが、”自分が作った何かを通して、誰かに喜んでもらうこと”にすごく憧れがあったんです。絵を描くことは苦手だったので、友人と同じことはできない。自分は何もできないことが悔しくって。


でも、私はみんなのために、紅茶やチャイを淹れることはできる。私にとってチャイは人と話すため、そして、人から"ありがとう"を頂くためのツール。相手が私のチャイを飲んで喜んでくれて、私もその姿を見て嬉しくなって。お互いがこんな幸せな気持ちになれるなんて凄いなって、心から思います」



彼女がチャイを作る上で一番大切にしていることは、相手に喜んでもらいたいという、人を想う気持ちなのだと思う。その想いが周りに伝わるから、皆が彼女のファンになっていく。もちろん、私もすっかり彼女のファンだ。


これから彼女のチャイを通して、沢山の人が繋がっていくことが楽しみだ。りおさんが届けるチャイで、今日も誰かが幸せな気持ちになること間違いなし!



                           (おわり)



 

むねかたりお 2020年3月より『出張チャイ屋Chai Tona』として活動を開始。現在は関西を中心に、イベント出店やテナントの間借り営業を行う。


◦ Instagram @chaitona_jp



bottom of page